あまみず社会理念構築
〈他分野・空間をつなぐ〉チームームは,分野横断,空間横断的な取り組みを追究することがテーマとして課されている.
まず,基本課題である「雨水社会の理念」について検討したい.
あまみず社会の理念 まずここにひらがなを用いる理由は,関係の多様性を包含するためであり,そのためにやわらかい表記がふさわしいと考え られるからである.
そのうえで,「あまみず社会」の意義を吟味しよう.
定義である――「『あまみず』という天空からの自然要素がもたらす恵みと災いを切り離さず,むしろ両者の折り合いをつけ ようとすることに連動して回復・持続される,人間関係の総体」としたい.
世界中の宇宙開闢神話において秩序の母体である混沌の象徴とされ,科学の黎明期にはその循環が月下の無秩序のただ中に 見出される数少ない大いなる秩序として理解された水.近代の芸術家や深層心理学者の創造性の源泉である水.しかし現在, あまみず・天水は一般に,利用(利水)と排除(治水)の功利的対象に過ぎない.そしてその結果が,環境の劣化と水害/渇 水ポテンシャルの増加ではないか.
一方,近年の「環境」の重視と対策は,このような功利主義と相反しこれを補填する面をもつ.ただし我々がとくに注意す べきことは,我々のライフスタイルの功利主義の克服である.水の扱いを公的機関に任せきり,蛇口と排水溝と飼いならされ た水辺だけを見ていては,迫りくるリスクに対応できず,精神文化の頽落をもたらすのではないか.
われわれが「あまみず社 会」を目指すのは,こうした理由から,水の扱いを自らの手に回復する必要があるからだ.
あまみず社会実現の基礎 まず道具立てである.ボトムアップの要素技術がふさわしい.
例えば各戸貯留の雨水タンクの利用者は,
1)庭の散水,2)地域水環境の醸成,3)他家への雨水排除の軽減を,設置理由 の上位に挙げるという.
1)利水,2)環境,3)治水がそろい,他者と地域への配慮が表れている.それはまた,タンクの利 用によって促進されることが期待できる.
雨庭は浸透ができ地下に広がりさらに効果的である.古刹の枯山水の庭は雨水浸透を考慮したものともいう.日常の快適さ と生物生息環境の改善ももたらす.デザイン性の高い道具立ては,地域景観にも貢献できる. 集合住宅には敷地内の緑地と駐車場が広がる.ここに雨庭と浸透性舗装を導入すれば,外構管理のコスト減と地域水循環の 改善に貢献できよう.さらには公共空間においては,グリーンインフラが重要である.
しかしこれもインフラとして行政主導 であれば,あまみず社会への効果はかなり限定されよう.自治協議会/小学校区単位で,その人的ネットワークを活かしなが ら行う,中小のグリーンインフラの施行と,それによる,いわば「グリーン/ブルー・モザイク」の形成がいいのではないか.
つぎに楽しさと効果の啓発である.
あまみずは非日常時の水害時に強烈な印象を与えるが日常にはあまり意識されない.また非日常のネガティブな体験を意識 に持続させるのも困難であり,それを持たない人々との共有も難しい.
よりポジティブな,日常体験の中で,水循環の健全化 に関わる「呼び水」が要る.楽しい啓発活動が大切である.ただしそれを日常化するのは,同様に工夫が必要だ.ライフスタ イルの一部になるような,啓発と体験が必要だ.そのための,ていねいな配慮ができる人材・技術者の育成が欠かせない.
さいごに場所である.このような事柄を実現するモデルとなる場所が要る.
樋井川流域がその大舞台である.そのなかで,田島校区周辺と桧原運動公園周辺が,とくに重要である.前者には 2012 年 から雨水ハウスの実例がある.その周辺に浸水箇所がある.後者にはため池が多い.50 年を超える住宅地を本川が流れている. ポテンシャルの大きさを無視できない.
以上
山下三平